恋の音

3/3
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
初めて世界に居場所を得たようで。 しかし、終わりが近づいていることもわかっていた。 鳴り響くサイレンの音。 わたしに永遠の安楽をもたらす天使のラッパだ。 駆けこんできたのは若い男性巡査だった。 オモチャの銃を構えるわたしに、たどたどしく、でも必死に人の道を説く彼のことを、 なんだか微笑ましく思った。 わたしはいったい、どんな顔をしていたのだろう。 わからないけど、彼はそんなわたしを見て、 涙を流した。 ――嘘でしょう? あなたはわたしを排除して職務を全うすればいいだけだ。 わたしは捕まる前に命を絶つつもりだけれど、あなたに責任は及ばない。 あなたはヒーローになれる。 なのに、なぜ、涙を流すの? わたしは笑ってしまった。 でもそれは、初めての気持ちだった。 今までの、ニヒルだったり、ペシミスティックだったり、 自分の呪われた運命が一蹴回って面白くなっちゃったりしての笑いじゃなくて。 心から笑いたくて笑った。 銀行で。オモチャの銃を持って。泣いている警察官の前で。 嬉しかった。 「銃を置いて、こちらへ来て」 「まだ君はやり直せる」 彼はそう言ってくれた。 だからわたしは銃を、 隣の女性行員に向けた。 ――ずきゅん。 わたしのハートを最後の最期に撃ち抜いてくれたその恋の音を、 わたしは今も忘れない。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!