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今目の前に。そう言おうとしてふと隣を見ると、そこに誰もいないことに気づく。
「え?」
あたりを見回しても誰もいない。彼が飲んでいたはずのチューハイも無くなっている。
事態が飲み込めずにキョロキョロと当たりを見渡す僕の耳に、友人の言葉がこだまする。
「あいつ、一昨日俺らと飲んだ後から行方わかんなくなってて、実家にも帰ってねぇみたいで、しかもさっき、あいつの血がついた荷物が見つかって、それで、」
行方知れず?帰ってない?血がついた荷物?
友人の言葉を理解できないまま、先程までいたはずの彼の言葉を思い出す。
"俺の死体"
途端に背筋が凍るのを感じた。友人の声が遠のく。自分の胸の鼓動が早くてうるさい。
恐る恐る、ゆっくりと振り返る。
背後には、桜の木。
とてもとても綺麗な、桜の、
"桜の木の下には、死体が埋まってるんだよ"
雲の切れ間から、月明かりが差し込む。
照らされた桜の根元、そこにキラリと光る、白い、白い、彼の、
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