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「とにかく起きろ、これ飲んで喉冷やせ。ラッパ吹く前に喉やられたら困る。」
イケメンのくせにイケてないダサダサ先輩の命令には従わざるを得ない。
「お前本当に中学の時ラッパ吹いてたのか?体力ゼロだぞ。腹筋ちゃんとあるのか?」
ムカッ!
「肺活量には自信があります。」
「実際学校の周り一周しただけで干上がってるじゃないか。」
「イケるもん!」
先輩のバカたれ。
これでも私、県下では結構知られた、ペット吹きだもん。
「あっそ。そうだね。去年のソリストコンテストでは中坊の部で金賞取って、全国大会出たんだもんね。優秀優秀。」
先輩に言われても嬉しくない。
この頭ぼさぼさのダサダサ先輩は去年その全国大会の高校生の部で金賞取った。
何を隠そう、私は先輩をステージで見た瞬間に惚れた。音に。
突き抜ける氷のように鋭くて冷たくて透明な高音。暖かくて羽布団にくるまっているような優しい低音。
この人を間近で見たい。願わくば先輩の隣にポジション取って、追いつき追い越したい。
彼の生み出す音に中坊の私はどっぷりはまりこみ、進学先をここに決めた。
私にはかなりの難関だったけど。
それはもう、恋以外の何物でもない。
音に。
入学式の終わったその日に部室に突撃して即入部。
……あれから一週間。
はやまったかもしれない。
憧れの先輩がこんなにSなやつだったなんて。
しかもマリモの下は美形だったなんて。
漫画かっ、ての。
まあ、チャンスなんだけど。
絶対追い付く。そして追い越す!
だがしかし。
マジでヤバイかもしれない、腹筋。半年前より息が上がるのが早い。
昨日も今一つ音に伸びがなかった。
今だってそんなに走った訳じゃない。
いや、これはあれよ、ガリ勉で運動サボってたからよ。
すぐに戻る、戻るもん。
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