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「お前は、綺麗だなあ」
綺麗だ。
そういうあなたの方がとてもとても、綺麗なのに。……きっと、そんな事を言われても「彼」は嬉しくないだろう。
「……夜市さん、私、そろそろ次のお客様の準備があるから……」
彼??夜市という名の男は私の髪を梳いていた手をぴたりと止め「もうそんな時間か」と呟いた。
彼に髪を梳いてもらうのはとても好きだ。彼もよく私の髪をいじってくるのできっと良くない感情はないだろう。
「今日は、初めてのお客様でお喋りだけ。お偉いさんなんだって」
「……」
私は何気なくそう言ったが夜市さんは黙ってしまった。何かまずい事を言っただろうか?
「俺がお前をここから連れ出してやれたらなあ」
夜市さんがぽつりと言った。
そんなこと、無理なことだと夜市さんが一番わかっているでしょう?
きっとあなたと外の世界を自由に見るのは、私の最大の幸せだろう。でもそんな事は無理なのだ。……私以上に、夜市さんの方が無理なのだ。
すっと襖が開いて、初老の男性が夜市さんに声をかけた。
「夜市、お客様だよ」
ーー鳥は、鳥籠から出られない。
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