もう赤い糸は結ばれない

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 売られてきたばかりの私はずっと泣きながら怯えていて。ここから出して、出してと喚いていた。そんな私は折檻されそうになったけれど、そこを夜市さんが庇ってくれて。私を抱き上げて安心させるようにぽんぽんと背中を優しく叩いてあやしてくれた。  面倒見が良くて、兄のような存在だった。よく頭を撫でてくれて、それが嬉しくて。……私にいろんな技を教えてくれたのも、花売りとしての生き方を教えてくれたのも夜市さん。  ??そんな夜市さんは、この店で一番上の花売りだ。  夜市さんは女の私から見てもとてもとても綺麗な人。そこらにいる女より綺麗。……だからだろう、夜市さんはとても人気がある。  どんな理由があって夜市さんがここにいるのかはわからない。ただ、夜市さんが男の人をとても嫌っているのだけは知っている。悟られないように振舞っているが、手酷く抱かれた後には、とても怖い目をしている。……怯えたような、何かを憎んでいるような。  普段の砕けた口調は男の人そのもの。たまに見せる仕草も男の人のもの。私はそんな夜市さんのどちらの雰囲気も好きだ。ーーそう、好きなのだ。  でもそれは叶わない。恋などと出来る身分ではないのだ。??夢すら見ることは許されないのだ。私たちは花を売るしか出来ないのだから。  きっとこの想いは死ぬまで自分で抱えて行くことだろう。いいや、死んでも抱えていたい。死んでも、魂が消えたって、夜市さんを想っている。     
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