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「……夜市さん!」
いつもなら部屋の前で声をかけてから入室する。しかしその時はそんな事すらしてる余裕がなく、許可を得ずに襖を開けた。
「……なんだ、紅葉か。いきなり襖を開けるとは非常識だな? 俺の躾が甘かったか?」
夜市さんは月を見ていた目をこちらに向けて少しだけ笑っていた。「もう一回躾がいるかもなあ」なんて冗談を言っているが、私は今それどころではない。
「夜市、さん」
「ん?」
「条件、ってなんですか」
「ーー」
それを聞いた途端、部屋の空気が張り詰めた。
聞いてはいけない事だっただろうか?いや、これは意地でも聞かなくてはならない。
夜市さんの目つきが険しいものへと変わったが、それでも負けるわけには行かなかった。
「……それを聞いてどうする。そもそもどこで知った?」
「奥様がおっしゃっていて……」
余計なことを……と夜市さんは普段聞かないようなものすごく低い声を出した。それには私も怖くなってしまった。
「紅葉」
先ほどのこともあり、名前を呼ばれて肩を揺らしてしまった。それに対して夜市さんは「すまない、怖がらせたな」と言って、立ったままの私を手招きした。
「こちらへ来い。……お前にとって大事な話だ」
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