猫棋士ZR

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   †  †  †    私は祖父の秘密を知っている。みなが眠っている時間、深夜の二時辺りに祖父は飼い猫の陸(リク)と将棋を指しているのだ。…といっても貴方は信じてくれまい、でも事実である。私だって最初は目を疑った。引戸の隙間からその光景を見た時は声が出そうになり慌てたものだ。将棋盤を挟んで祖父は胡座をかき、陸はぴんと延ばした前足を揃え腰を下ろした格好で座り、駒を打つ時は器用に右足を右腕のように使い──そう、打つ時は肉球に駒がくっついているのだ。裏返すのもなぜかスムースに行えてる──時おり尻尾を揺らしながら対局にのぞむ彼の姿は堂にいっていた。  誰かに話しても頭を疑われるだけだしとりたて何の害もない以上私としてもこのことは胸に仕舞い込んでおくしかない。周りの友人達が次から次に亡くなっていく祖父の寂しさに陸が応えたのだ、と私はそう解釈することにした。えらいぞ陸。しかし…、彼は地球の猫ではないだろう。宇宙からやって来たのではないのだろうか。地球外生命体が正体でたまたまこの家を拠点にしているだけなのでは? 幾つか思いあたることがある。彼は人目につかないタイミングでよく「立つ」のだ。二本足で。私に見られた、と気づいた瞬間に何事もなかったように四つ足に戻り見えない場所に消えていくということが何度かあってきた。いや立つという行動そのものよりも見られた際の仕草や態度が人間っぽいのである。が陸はどう見ても見た目は猫、どこにでもいる茶トラの雄猫である。    
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