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こんな台詞を俺に言える彼が、仁井村みたいな最低野郎とは思えない。
だから小南ならなっちを幸せに――大人になったなっちにほの暗い影を落とす何かを、彼から取り去ってくれるかも? と期待し、とりあえず任せてやってもいいかな……と思ったのだ。
(それに失恋という結果にはなったけど、ようやく告白出来たしさ。俺はやっとこさベストを尽くし終えられた)
正直、まだまだ全然未練がある。
三回目の失恋をしても、なっちへの恋をふりきれてはいない。
それでも『告白』という行為は、高校時代からの恋心へ一区切りをつけられた気がし、すっきりしている。
(賭けに負けても、なっちの親友ポジは俺だし! ――それにもしかしたら、チャンスが巡ってくるかもじゃん?)
なっちのことがまだ愛しいけれど、それは彼を不幸にしてまで叶えたい想いではない。
だけどもしも再び彼がつらい状況におかれたならば、その時は今度こそ俺が一番側で彼を支えると決めている。
(けど、ひとまずは俺もここで『卒業』ですよ。卒業おめでとー! 自分!)
何となく思い立ち、ペットボトルに張りついている包装にハサミを入れてはぎ取り、まだ中身が七割ほど入っているそれを机の上へ戻す。
そして俺は机の左上に鎮座している電話の受話器を取ると、素早くボタンを押して美術準備室へ内線をかける。
「――もしもし、なっち? 卒業式お疲れ様飲み会、今夜二人でしない?」
むき出しになったメロンソーダは、ペットボトルの中で鮮やかに爽やかな色をたたえ、静かに気泡をはじけさせている。
それはまるで俺にとっての青春を凝縮し、溶かしこんだような物質に見えた。
* 終 *
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