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「なぁ、センセ。美術部は合宿とかしねーの?」
期末テストで部活が休みとなる直前の日に、決められた活動日でもないのに小南がふらりと美術室に現れた。
「しねーけど? というか、去年もしなかったろ。いきなりどうした?」
美術部は毎週火曜日が活動日だが、顧問である俺の許可さえあれば他の日でも部活をすることは可能である。
なので美大を受験する予定の三年生などは、他の曜日でも結構来て絵を描いている。
けれど今日はまだ小南以外誰も来ておらず、ふいな二人きりの状況に少し緊張してしまう。
「別に。何となく」
手近にあった、背もたれのない木の箱のようなシンプルな椅子を引き寄せると、それに小南は座る。
「ゲーム部はあるんだっけか?」
「ああ。一泊二日で山に行く」
座る生徒を立って見下ろす教師の構図なんて、学校という空間においては呼吸をするほど当たり前なものだ。
しかし「部屋には二人きりで、椅子に座る生徒に想いを寄せる教師」となると、俄然当たり前ではなくなる。
「山の中歩く、オリエンテーリングとかするんだって?」
「よく知らねーけど、たしかそんなん」
入学時から既に小南は俺より背が高かったが、二年進級時の身体測定の結果によると更に伸びていた。
だが椅子に座れば、見下ろす側の小南と見下ろされる側の俺の立場は逆転する。
自然と小南は俺を見る時、三白眼気味の瞳は多少上目づかいになる。
(夏は薄着になるから、身体のラインやらが分かりやすくなって困る……)
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