二年生、夏~四ツ橋凛・後編~

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「は?」    小南的に考えてもみなかったことらしく、驚いたように彼は目を見開いた。    「絵以外の勉強も必要だけど、芸術系は実技重視で偏差値自体はそこまで高くないところが多いし。お前は絵が上手いからさ。どうかなって」 「センセはオレの絵上手いと思うんだ?」 「普通科の学生にしてはな。――もしかして昔、絵を習っていたことがあったりしたか?」    以前星宮が小南の母親を「教育ママ」呼ばわりしていたことを思い出す。  小南の家は金持ちなので、母親が息子に絵を習わせていた過去があっても驚かない。  しかし彼は首をふって否定した。   「うちのババアに習い事は色々させられたけど、絵はねーな」 「そんな色々やってたのか?」 「まーな。ババアが見栄はりたいのか、勉強系運動系ゲージュツ系……たくさんやらされた」  小南は自分の母親のことを、年頃の不良らしくババアと呼ぶ。  二年も問題児小南の副担任をしているので、彼の母親とは過去に数度会っている。  彼女と対面してみての俺が受けた印象は、「推測される実年齢より若く見えて、和服の似合う気の強い美人」という感じだ。  小南は父親似なのか、あまり母親とは似ていない。 「どれもひとつも続かなかったけど。頭は元々悪りぃし、昔は身体弱かったし」 「え? 昔は病弱だったのか?」 「意外だろーけど、昔は年中熱出してたし、チビだった」 「マジか」    俺が知る限りこの一年と一学期間は、小南が体調不良な様子を見たことがないせいもあって、小南の意外な過去に素直に驚く。   「マジで。だからちっせーころは家の中ばっかでさ。ババアがヒステリー起こしてゲーム機壊したりしたから、その代わりでもないけど、絵はそのころから何となく描いてた。ノートの端とか裏とかに色々」    たんたんとした口調で小南は言い、セミが鳴く窓の外のどこか一点を彼は見つめる。
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