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「そのせいか知らねーけど、昔から絵を描くと誉められることが多かったな。センセだって誉めてくれるじゃん? ――だから絵を描くのは嫌いじゃない」
無表情から一転して、押さえた嬉しさが滲む声と表情を小南は俺に向けてきた。
(あ、ヤバイ。可愛い。――すげぇ好き……!)
心の中で、好きメーターと可愛いメーターが一瞬で振り切れる。
「――ならさ、美大って進路全然アリじゃないか?」
にやけてしまう顔を見せないために、不自然だと理解しつつも、俺は返事をしながら後ろを向く。
「ババアが何て言うかなぁ? アイツ見栄っ張りでうるせぇからなぁ……。あとコハクもゲージュツ系とは言ってたけど、美大かどうかは知らないし」
「星宮にも話して、ちょっと考えてみてくれよ」
小南は俺の行動にツッコミを入れることはなかった。
声から察するに自分の進路を考えるのに手一杯、という感じだ。
「気が向いたらな。――なぁ、センセはどうしてセンセになったんだ?」
ゆるんだ表情筋を何とか元に戻そうとしていると、ありふれた質問をされた。
「俺? 俺は……」
押さえきれないほど高揚していた心は、ありふれた質問という形での冷や水に一気に静まる。
「……資格あった方が有利かなと思って。何となく教職の単位をとっただけ」
違う。
俺が教職の資格をとろうとしたのは、あの人が教師だったから。
同じ職につければ、あの人と一緒に働くことが出来るかもしれない、傍にいられるかもしれない――そんな幼稚な考えからだ。
頭の中が花畑だったころの、笑ってしまうような動機。
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