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「テキトーなセンセぽい理由だな」
振り向けば、小南は何も知らずにニヤニヤしていた。
ちゃんといつもの俺の顔に戻れているようだ。よかった。
小南に過去の馬鹿な俺のことを知られたくない。
「何しろ脱サラして教師してるしな」
「へー。サラリーマンしてたんだな。最初からセンセかと思ってた」
「二年間だけだけどな」
俺は学習能力のある人間だから同じ過ちを繰り返さない。
だからどれだけ好きになっても小南に告白しない。
久々に恋という奴の胃袋に落ちて一年四ヶ月たつが、今度は消化なんてされてやらない。
そう決意を新たにした時、小南と二人きりだった美術室の扉が外側からがらりと開けられる。
「ナツメ先生ー! 遊びに来ましたー★ て、小南センパイもいるじゃないですかー!」
反射的に振り向いてしまうが、見ずとも媚びるようなこの高い声は、間違いなく四ツ橋に違いなかった。
「よう、四ツ橋」
「小南センパイ、こんにちは★ 火曜日じゃないのにいるの珍しいですね。星宮センパイはいないんです?」
エアコンの冷気が逃げないように四ツ橋は扉を閉めて、俺たちに近寄ってきた彼は不思議そうな顔をする。
「まーな。てゆーか、四ツ橋こそ活動日でもないのにどうしたんだよ?」
「ボクはナツメ先生と男子会しよっかなって。要は遊びに来たのです★」
「二人とも部活しに来たんじゃないなら、帰ってテスト勉強しろ」
「五教科のセンセでもねーのにウルセェなぁ。……メンドイから帰ろ」
教師らしいことを言えば、小南は途端につまらなそうな顔になって椅子から立ち上がる。
四ツ橋も来てしまったし、教師として正しい発言とは思うが、小南が帰ってしまうことを残念に思う。
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