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「なら一緒に帰りましょー! 小南センパイ★」
まるで恋人のように、小南のたくましい腕に四ツ橋が自分の腕をからめる姿に、モヤっとする。
「お前ら本当に何しに来たんだよ……」
あきれにティースプーン一杯程度の嫉妬をまぜて、俺の横を通り過ぎようとした二人に言えば、小南が真横よりやや後ろでぴたりと立ち止まった。
「あ、そうだ」
何か思い出したように彼はそう言い、俺が着ているワイシャツの袖をぐいと引っ張ってきた。
「――タバコやめたか?」
俺の肩口に顔を寄せ、小南は俺のワイシャツの臭いを嗅ぐ。
胸ぐらを掴まれてメンチを切られる時以外での、こんなに近距離ははじめてで、心臓が跳ねた気がした。
「……まだ全然臭う……」
不愉快そうな残念そうな、耳元近くでつぶやかれる低い声が色っぽい。
小南からは、髪を整える時に使用していると思われる整髪料のにおいがした。
「本数はだいぶ減らしたんだけど……」
「くせぇからさっさと禁煙しろよな!」
「えー? 何ですか何ですかー?」
お互いに少しだけ振り返るような格好で会話している俺たちに、小南を挟んで俺の逆にいた四ツ橋が割り込んでくる。
「タバコは有害だから、吸うのヤメロて話」
小南はワイシャツから手を離し、俺といつも通りの適切な距離をとる。
そして四ツ橋に三次喫煙の有害性のかなりふわっとした説明と、そういう理由で俺が煙草をやめるという約束をした、という解説をする。
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