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「ねぇ、ナツメ先生。ひとつおたずねしたいことがあるんですが、訊いてもいいです?」
半分ほどケーキを食べたころ、四ツ橋が言った。
「ん? なんだ?」
コーヒーを飲もうと紙コップに手を伸ばした俺は、常態化しつつある四ツ橋との男子会に油断しきっていた。
「先生って、小南センパイのことが好きでしょ?」
手に取った紙コップの中のコーヒーが、ぎりぎりこぼれない程度に揺れた。
「……――は? 何言ってんだ、お前」
少し間をあけてしまったが、耳に聞こえるのは普段通りにやる気のない俺の声だ。
不自然な間も、あてずっぽうな指摘に驚いたと言えばいいだろう。
ただドッドッドッと、早い鼓動で血液が流れる音も同時に聞こえているのが心配だ。
もしかして今、俺の顔は情けなくも真っ赤になっていたりするのだろうか?
それはとても駄目だ。物凄くよろしくない。
「嘘ついても無駄ですよ、先生。ボク、こういう勘は鋭いんです★」
裸エプロン写真を突きつけて脅迫してきた時のように、四ツ橋はニィと凶悪な笑顔で俺を見る。
「勘は勘でも、とんだ勘違いの勘だな」
「物理的証拠は提示出来ませんけど、先生ってばさりげなく小南センパイのこと見すぎなんですもん★」
「そうか? まぁ小南は問題児だからな。今年は介護役というか、奴の主の星宮と別クラスだし、いつ問題起こすか? てヒヤヒヤして見てるよ」
(俺はそんなに周りにバレバレに小南を見ていたのか?! もしかして四ツ橋以外にも疑惑を持たれていたりするのか?!)
平静を装って言い返しながら、動揺する思考の中で「絶対に認めてはならない」と死守すべき防衛ラインを確認する。
四ツ橋が言っている通り、俺が小南を好きだという物理的証拠は何もないのだ。
「疑わしきは罰せず」で、証拠がない以上すべては彼の推測としか言えないのだ。
「もしかして? と最初にボクが思ったのは、一学期の期末テスト前に、ボクとセンパイと先生の三人で煙草がどーのこーのていう話した時なんですけど」
「そんなことあったかな?」
言葉とは裏腹に、俺はその時のことをすぐに思い出す。
「ありましたよ★ ――煙草の臭いを確認するために、小南センパイが顔を近づけた時の先生の様子を見て、もしや?! とピーンときたのです」
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