二年生、夏~四ツ橋凛・後編~

15/18
前へ
/464ページ
次へ
「心配しなくても誰にも言いませんからご安心を★ ――あ、ママからDMなのです」    作業台の端に置いていた四ツ橋のスマートフォンが、流行りの曲で着信を伝える。  メルヘンちっくなカバーをつけたそれを四ツ橋は取り上げ、母親からの連絡に返信をしはじめる。   (落ち着け、俺。こういうのは熱くなった方が負けなんだから……)    その様子を見ながら、この沈黙の時間を使って思考をクールダウンさせる。   「返信おーしまいっ★ と。ではでは、さっきの話の続きをしましょうか★」 「しなくていい」    四ツ橋は元の通りにスマートフォンを作業台の上に置くと、俺の言葉は当然のように無視して話を続ける。   「ボクの考えでは、先生はもしかしたらもしかすると? て勝率予想です★」 「何もないんだから、勝つも負けるもないだろ。予想なんてしても無意味だ」    そう言いながらも、俺に勝機があるような言い方をされたのが気になった。  四ツ橋からは、小南が多少なりとも俺に気があるように見えるのだろうか?   「えぇー? 意味ありますって!――先生は星宮センパイと似た系統に分類されると思うので、頑張ればいけるんじゃないかと思うんですよねー?」    尋ねれば相手の術中にはまりに行くようなものだ、と理解しつつも、つい訊いてしまう。   「似た系統とは何のだ?」 「キレイかカワイイか? で分類したら、キレイ系に入る、てことです。ボクはもちろんカワイイ系です★」    両手の人指しと中指を使ってハートマークを作りながら、四ツ橋がウィンクをする。   (こいつは三十路を過ぎた男に対して何を言っているんだ?)    斜め上すぎる回答に、俺はこの時、たぶん真顔で四ツ橋を見ていたと思う。   「系統が同じでも、モデルをやってる『女王』とくたびれたおっさんじゃ、天と地ほどの差があるわ」    そもそも二択しかなく、それに無理矢理当てはめて分類したなら、人類の半分は星宮と同じ系統の『キレイ系』になるのではないだろうか。
/464ページ

最初のコメントを投稿しよう!

559人が本棚に入れています
本棚に追加