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「心配しなくても誰にも言いませんからご安心を★ ――あ、ママからDMなのです」
作業台の端に置いていた四ツ橋のスマートフォンが、流行りの曲で着信を伝える。
メルヘンちっくなカバーをつけたそれを四ツ橋は取り上げ、母親からの連絡に返信をしはじめる。
(落ち着け、俺。こういうのは熱くなった方が負けなんだから……)
その様子を見ながら、この沈黙の時間を使って思考をクールダウンさせる。
「返信おーしまいっ★ と。ではでは、さっきの話の続きをしましょうか★」
「しなくていい」
四ツ橋は元の通りにスマートフォンを作業台の上に置くと、俺の言葉は当然のように無視して話を続ける。
「ボクの考えでは、先生はもしかしたらもしかすると? て勝率予想です★」
「何もないんだから、勝つも負けるもないだろ。予想なんてしても無意味だ」
そう言いながらも、俺に勝機があるような言い方をされたのが気になった。
四ツ橋からは、小南が多少なりとも俺に気があるように見えるのだろうか?
「えぇー? 意味ありますって!――先生は星宮センパイと似た系統に分類されると思うので、頑張ればいけるんじゃないかと思うんですよねー?」
尋ねれば相手の術中にはまりに行くようなものだ、と理解しつつも、つい訊いてしまう。
「似た系統とは何のだ?」
「キレイかカワイイか? で分類したら、キレイ系に入る、てことです。ボクはもちろんカワイイ系です★」
両手の人指しと中指を使ってハートマークを作りながら、四ツ橋がウィンクをする。
(こいつは三十路を過ぎた男に対して何を言っているんだ?)
斜め上すぎる回答に、俺はこの時、たぶん真顔で四ツ橋を見ていたと思う。
「系統が同じでも、モデルをやってる『女王』とくたびれたおっさんじゃ、天と地ほどの差があるわ」
そもそも二択しかなく、それに無理矢理当てはめて分類したなら、人類の半分は星宮と同じ系統の『キレイ系』になるのではないだろうか。
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