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入学式から二週間過ぎた週末の金曜日の夜、勤務先の学校からは離れた場所にある居酒屋に俺はいた。
「今週もお互いおつかれちゃんでしたー!」
養護教諭をしている同僚の瀬尾比呂志(セオ ヒロシ)と二人きりでテーブルを挟んで向かい合い、ビールが入ったグラスをぶつける。
「なっちのクラス、落ち着いてきたか?」
「んー……ぼちぼちってところかな。てゆか、なっち呼びヤメロ」
「『棗先生』て呼ばれるよりいいだろ?」
「そりゃお互い様だろ。どこに保護者や関係者いるか分からないんだから、先生呼びはすんな」
瀬尾は高校時代の親しかったクラスメイトで、七年前に偶然駅のホームで再会した。
ちょうどそのころ当時の職場の人間関係がゴタゴタしてきており、転職を考えていると話したところ「俺が勤めてる高校で美術教師募集するからどう?」と言われ、応募したところ見事受かって今に至る。
「そうカリカリすんなよ。弁護士や医者も先生だぜ?」
「どう見てもそういう『先生』じゃないだろ、俺たち」
瀬尾は黒縁の太フレームのメガネをかけ、短い髪はワックスでツンツンと立たせており、とてもそのどちらかの職業には見えない。
服装含めてチャラい外見なので、初見で職業を養護教諭と当てられる奴はいないのではないかと思う。
俺自身だって、だらしなく覇気に欠けているので、仕事以外の場で会った人間に教職だと当てられたことがない。
「お待たせしましたー。焼き鳥三種盛りですぅ」
そんなことを思っていると、バイトらしき大学生くらいの女の子がふたつ皿を運んできた。
「アリガトー。おねぇさんカワイイねぇ!」
「まだ酔ってもないのに店員さんに絡むなよ」
笑顔を残して去っていく店員の尻を目で追う瀬尾に、あきれた目を向ける。
「絡んでねぇって。実際結構カワイかったじゃん。――あ、お前のクラスの『姫』のがカワイイって?」
「星宮琥珀(ホシミヤ コハク)は男だろ。あと『姫』かどうかはまだ決まってない」
『姫』というのは、毎年五月頭に学校裏サイトで秘密裏に投票される「抱きたい・抱ける男ランキング」で一位をとってしまうと、影でそう呼ばれることになってしまう称号だ。
男しかいない男子校ならではの『あるあるな催し』なのかそうでないのかは、この勤務先が初な俺には分からない。
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