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「ボクがここに来るのだって、ナツメ先生の顔面偏差値が高いから、ていう理由も多分にあるんですよ!」
「あぁそう……」
「前も言いましたけど、ボクのクラスはいかついのが多くて。しもべとしては使えますけど、年中ゴリラフェイスを見ているのは胸焼けがするのですぅ……★」
四ツ橋は俺の手を離すと、自分の胸に広げた両手をあてて、はぁと悲しげにため息をついた。
「ナツメ先生は美術教師の癖に、顔面の美醜に鈍感だし無頓着ですよね。――気づかないうちに影で何人も泣かしてそうですぅ★ ヒドーイ!」
「人聞きの悪いことを言うな」
顔の美醜の判断なんて個人の好みで変わってくる。
確かに顔を誉められることはあるが、『姫』たちみたいにキャーキャー騒がれるようなレベルではない。
そんな体験を今までしたことがない、という事実は根拠とするのに十分だろう。
自分の顔は「不細工ではないが、特別綺麗でもないありふれた普通の顔」という認識をしている。
……だがまぁ、毎年最低ひとり以上の生徒から告白を受けているのも事実だ。
すべて即断って、好きになった理由など聞いたことはなかったが、彼らは俺の顔が好きだったのだろうか?
「何か過去に思い当たることでも?」
「ないよ! 俺はフツメンだからな!」
考えこむ俺を見て、四ツ橋がすかさず畳み掛けるように言ってくるが、つけ入る隙を与えずに否定する。
その直後、バンバン! と雑に扉を叩く音がした。
(このノックの仕方は――!)
「ナツメセンセ、四ツ橋はいるか?」
がらりと遠慮なく扉を開けたのは、予想通り小南だった。
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