二年生、夏~四ツ橋凛・後編~

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 * 「いまーす★ ボクはここでーす★」    小南の声に、存在を主張するように四ツ橋が座ったまま大きく手を振る。  想い人の突然の登場に戸惑っていると、四ツ橋が俺に向けて言った。   「さっきママに返信するついでに、小南センパイにも連絡したんです。『もしまだ学校にいたら、部活でケーキ焼いたので一緒に食べませんか? 今、美術準備室でナツメ先生といるんですけど』て」 「お前って奴はっ……!」    怒りだか動揺だかで、顔がひくつくのが自分でも分かった。 「これが四ツ橋が焼いたケーキか? ふーん、うまそうだな」    扉をしめてこちらへ歩いてきた小南は、どう対応するのがベストなのか焦る俺など気にもせず、作業台の上のパウンドケーキをガン見している。   (そうだよな……小南は色気より食い気、て感じだもんな……)    たぶんパウンドケーキが今一番、この部屋の中で小南からの好感度が高いと思われる。   「モチロン美味しいですよ★ ――今、センパイの分も切りますね。ナツメ先生、小南センパイにもコーヒーいれて下さいっ★」    四ツ橋はパイプ椅子から立つと、当然のように俺に指示を出してきた。   「お前らなぁ……ここは喫茶店じゃねぇからな!」    そう言いつつ俺も椅子から立ち上がり、小南用のコーヒーを用意してしまう。   「これ飲んで食ったら、二人とも帰れよ!」    壁に立てかけていたパイプ椅子を持ってきて、四ツ橋の隣に座る小南に、コーヒーの入った紙コップを差し出す。   「センセてば、つれねーなぁ!」    小南は顔をくしゃりと歪めて笑い、俺から紙コップを受けとる。  その時少しだけ互いの指が触れたが、俺はもう三十路の中年なので、そんな些細なことでいちいちときめいたりはしない。  けれど――少しだけ嬉しくは感じた。   「センパイ、お味はどうですか?」 「甘くてうまい。オレ、コレ好きだわ」 「本当ですかぁ! 嬉しいです★ センパイのためにまた家で焼いてきますね★」  小南は結構甘党ぽいよなぁ、と二人の会話を聞きながら思う。  すぐにケーキを食べ終えた二人は、俺もまじえて少し雑談をした後、いつかのように連れだって帰っていった。  その帰り際、意味ありげにこちらを振り返って笑った四ツ橋のことを考えると、頭が痛い。
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