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社会に出る前のモラトリアム期間を暢気に過ごしてはいたが、やはりずっと半ば行方不明気味な、彼のことが気になるのだ。
「あのね、ここだけの話だけど……仁井村先生、今度お見合いするんだよ!」
叔父に肩を抱き寄せられ、声をひそめて教えられた事実に、俺は思わず声をはって詳細を尋ねる。
「マジっスか?! 誰と、いつ?!」
(仁井村がお見合いをするということは、奴は既になっちと破局済みか、これから別れることは確定なわけで! ――いやでも、そもそも二人がつきあってるとかいう話、噂でしか知らないんだけどね?!)
俺のリアクションに気を良くしたらしい叔父は、にやっと笑う。
「この春先に、とある校長先生の娘さんと。気になるなら、結果が出たら教えてあげるよ?」
俺はこの結果を知るためだけに、叔父と連絡先を交換した。
(噂が本当だと仮定して……なっちが仁井村と別れ済みならいいんだけど……もしそうじゃないなら、恋人関係を清算しないまま、別の女と見合いをするという、奴の悪行を教えてあげたい)
自分の携帯電話をじっと見てから俺はため息をつき、沈黙しているそれから目をそらす。
(でも俺、今なっちに通じる連絡先を知らないんだよなぁ。二人の現在の関係性も知らないし。下手に教えたら、傷に塩塗り込むことになったりして?)
どうすればいいのか分からず、何も出来ないまま時は過ぎていき、俺が大学四年生に進級した四月中旬、叔父から「仁井村先生の見合いは破談になった」という電話がきた。
『八月にいつもより規模デカめの、クラスの同窓会みたいな飲み会やるから来い』
大学四年生の夏休み前、地元の大学へ進学した友人から、要約するとこのような内容のメールが送信されてきた。
(高三の時のクラスの集まりだから、なっちは絶対いないんだよなぁ……)
少しの落胆を覚えながらも、飲んで騒ぐのが好きな俺は、この集まりに参加することにした。
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