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(化粧する奴が増えて、メイク技術も上がったとはいえ、それ落としたらブスなんだよな、コイツら)
数年ぶりに再会した女子たちは皆、化粧のおかげで見目が高校時代より良くなっているが、自分の学年が『ブス隔離場所』と呼ばれていたことを、俺は忘れていない。
よってハナから『お持ち帰り』などは企まず、八月の蒸し暑い日、安い大衆居酒屋でいつも通り、適当に飲んで騒いでいた。
「ねぇ瀬尾。ちょっといい?」
そろそろ二次会も終わるというころ、座敷の端でちょっとばかり休憩をしていた俺は、白地に紺のチェック柄ワンピースを着た女に声をかけられた。
「おう。どうしたよ、吉永(ヨシナガ)?」
俺の隣に座ってきたのは、かつて白雪姫役のなっちにメイクをほどこした、『化粧詐欺師』と男子間であだ名されていた人物だった。
彼女は高校時代と変わらず、この日も流行りのメイクを一分の隙もなく、がっちりとしていた。
「アンタってさ、まだ棗と友達だったりする?」
「……なっちに何か用?」
俺は友達だと思っているが、新しい連絡先を教えてくれないなっちが、まだ俺を友達と思ってくれているかは分からない。
心の片隅で密かに恐れている部分を突かれ、俺は不機嫌な低い声で質問をし返してしまった。
「用っていうか……。ただアタシは、アンタと棗がまだつきあいがあるかを、訊いてるだけなんだけど?」
『化粧詐欺師』吉永は一瞬、敏感に俺の不機嫌を感じ取ったように見えたのだが、強気な姿勢で食い下がってくる。
「ねぇよ」
「ウッソ!? 棗の保護者かストーカーみたいだったアンタなのに?!」
わざと大袈裟に驚いているように見える吉永に、俺はイライラがつのる。
「ヒトを犯罪者みたいに言うなよな! もしかして俺、お前に喧嘩売られてる?」
「違う違う! ……ごめん。だって、めっちゃ意外だったから」
「……大学入ってからすぐ、どうしてかなっちとメールも電話もつながらなくなって、それ以来連絡とれてない。お互い県外に進学したしさ」
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