558人が本棚に入れています
本棚に追加
俺の嘘偽りない返事の後、吉永は俺の本心を探るように、無言で俺をジロジロ見てきた。
そして少しの間俺を眺めた彼女は、声をひそめて言う。
「アンタこの後、時間ある?」
二次会終了後、俺と吉永は三次会へは行かず、別々に帰るふりをして、十分後に合流した。
「瀬尾を誘った理由の結論を最初に言っとくと、アタシは棗が心配なの」
合流後、三次会会場とは離れたファミレスで、注文したコーヒーゼリーに手をつけることなく、吉永が言った。
俺は二次会までで腹がパンパンなので、ドリンクバーのみの注文だ。
「ここから私が話すことを他の誰かに言ったりしたら、地の果てまで追いかけて、アンタを殺しに行くから」
彼女は勝手な取り決めをするが、なっちに関係する真面目な話を聞けるのだと予想し、了承する。
「瀬尾なら……棗のあの噂、知ってるかと思うんだけど」
「……なっちが某人物とつきあってる、とかいう噂?」
「うん、それ。アンタだったら、やっぱり知ってるよね」
俺が仁井村との噂を知らなければ、吉永はたぶん、この先のことを話すのをやめたんじゃないかと思う。
けれど知っていると確認がとれてしまったので、彼女はグロスが光る唇を一度きつく結んだ後、覚悟を決めたように口をひらく。
「アタシ、春に教育実習のために、地元のこっちへ戻って来てたの」
「ふーん。吉永も県外の大学へ進学したんだっけ?」
「ええ。――その教育実習の時、棗に会ったのよ」
「はぁっ?! 本当に?! ガチでか?!」
俺はファミレスにいるということを忘れ、ガタンと椅子を揺らして立ち上がり、大声で反応してしまう。
最初のコメントを投稿しよう!