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「アンタ驚きすぎ! そんな大袈裟にリアクションとるほどのことじゃないでしょ! 恥ずかしいから早く座ってよ!」
「す、すまん……。ちょっと驚きすぎた。――それで、続きは?」
俺は心を落ち着かせるように、顎や首を強く手のひらで擦りながら着席する。
「実習者の人数はそう多くなかったし、アタシや棗みたいに県外の大学へ進学した奴が半分以上だったし、初耳情報でも妥当だと思うわ」
そこで吉永は一度言葉を切り、お冷やをひと口飲んだ。
「仁井村が今年の春に、どこぞの校長の娘とお見合いした話は知ってる?」
「ああ。破談になったと聞いたけど」
「瀬尾ってホント耳ざといというか、情報通よね」
「そうでもねぇよ。フツーだろ」
これを聞いた吉永は「普通じゃないわよ。情報屋にでも就職したら?」と、ちょっと笑って言ったが、すぐに真面目な顔に戻る。
「お見合い破談の話は教育実習の時、一緒だった子から聞いたんだけど。……だから棗は元気がなくて少しやつれてんだな……とアタシ、彼をすごく可哀想に思った」
吉永はミルクのポーションを手に取って開封すると、それをコーヒーゼリーの上にかける。
高校生の癖して、なっちは苦いコーヒーが好きだったな……なんてことを、俺はふと思い出した。
「これは女の勘だけど、たぶん教育実習直前か少し前に、仁井村に捨てられたんじゃないかな? と感じたわ」
「仁井村って最低糞野郎だな。――本当になっちとつきあってたら、の話だけど」
この噂を聞いた時から俺は、「デマならいいのに」と、ずっと思っている。
しかし、『二人はつきあっているらしい』以降の続報はひとつも流れて来ないので、噂の真偽は不明なままだ。
「二人の交際が本当だという証拠は持ってないけど、あのゴミ教師が何股もしてるという話は、ガチでマジよ。……知り合いの被害受けた子本人が、そう言ってた」
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