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だいぶ肌寒くなってきた十一月最初の日曜日の夕方、俺は瀬尾に呼び出されて、奴のマンションのリビングにいた。
「一ヶ月くらい仕事が忙しくなるからゴメンネ! て言ってたのにー! ちょっと構わなかったくらいで、『アナタは私のことなんてどうでもいいのね。私のこと好きじゃないなら別れましょ』て何なんだよー!」
呼び出された理由はコレだ。
瀬尾は今年の夏に、海水浴場で知り合った女性と交際していたのだが、今日の昼過ぎにカフェで別れを告げられたらしい。
その結果、荒れた瀬尾は俺を呼び出して缶ビール片手に愚痴っている、というのが今だ。
「それくらいで発狂する女なんて地雷臭ハンパないし、向こうから別れてくれると言うなら、それはもしかしなくてもラッキーなんじゃないか?」
瀬尾の彼女への放置がどの程度のものだったのか、俺は知らない。
だが酔っぱらった彼が、壊れたレコードのように何度目かの同じ台詞を言ったので、俺も何度目かの似たような台詞を言ってやる。
「そうだよな! あんな面倒な女、こっちから願い下げだっ! ……あのGカップの巨乳、もっと揉んでおくんだった……うぅ……」
瀬尾が情けない声で電話をしてきた時点で、やけ酒につき合わされることになる、ということは分かっていた。
だから今日は自家用車でなくバスで来たのだが、瀬尾のアパート前に着いた時、スーパーに買い出しに行っていたらしい奴と鉢合わせた。
しかし両手に提げたビニール袋いっぱいに酒とつまみを詰め、生気のない目でこちらを見る瀬尾に、その場でUターンしなかった俺は友達思いだと思う。
「うちの学校の『姫』たちよりブスのくせにっ……!」
「顔はイマイチだけど、ナイスバディなんだよね~」と鼻の下を伸ばしていた彼を思いだし、俺は何ともいえない気分になる。
「そうだな。一人はモデルだしな」
適当に返事をしつつ、手に持っていた缶チューハイをあおる。
するとソファーに並んで座っていた瀬尾が急に、俺の何も持っていない方の手を掴んできた。
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