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「『昨日のアンタの棗への暴言、酔ってたとはいえ、本当酷い! 酔ってたからこそ、あれが本音なんだろうけど、マジで最低!』と、怒りまくったんだけど……あの酔っ払い、全然覚えてなくてね」
「本当か? すっとぼけてるだけじゃねーの?」
吉永が俺へ話してくれたこの出来事は、もう既に過ぎ去った春に起きたことだ。
よって今更、俺が何を出来るという話ではない。
そう理解出来るのに、酔っていたとはいえ、なっちへ酷い言葉を吐いた男に対し、激しい怒りがわく。
「アタシには電話口でのソイツの言い訳、本当にあの時の記憶がトンじゃってるように聞こえたわ」
「ふぅん……」
もしセクハラ男がこの場にいたら、俺は思いつく限りの罵倒を浴びせ、絶対に一発は殴っていたと思う。
けれど奴はここにいないので、俺は吉永の言葉に相槌を打つことしか出来ず、腹の中でやり場のない怒りがグルグルめぐる。
「そういう出来事があったから、アタシは棗のことが心配なのよ」
「……万が一……新聞のおくやみ欄に載るようなことになってたら、さすがにどっかから話を聞くだろうから……自殺とかいう最低最悪な事態には、なってないと思うけど」
俺は冷静なふりをして返事をするが、内心めちゃくちゃ糞男に激怒しているし、同時になっちが心配で可哀想で、胸が痛い。
「そうね……そうよね!」
吉永は胸に手をあて、小さく数度、己に言い聞かせるかのようにうなづく。
「このこと話したのは瀬尾がはじめてなんだけど、モヤモヤイライラしてたのが、ちょっとスッキリした気がする」
「はじめてなんだ?」
なっちの心を深くえぐっただろう重大事件なので、面白おかしく吹聴されまくると困るが、親しい女友達くらいには話しているのだと思っていた俺は、意外に思った。
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