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「あくまで高校のころの話だからねっ! 今はちゃんと大学に彼氏がいるし!」
吉永は慌ててふたつ折りの携帯電話を開くと、待受画面に表示されている、彼氏らしき男とのツーショット画像を見せてくる。
「アッ、ハイ。そーっスか」
吉永も頬を赤くしているが、俺は今自分の顔色を元に戻すことの方が重要だし、綿矢と違い彼女に対しては、ライバル的気持ちを持たなかった。
(吉永のなっちへの恋が、過去形だからだろうか?)
自分がなっちへ特別な好きを抱いていると認めた時、同時に綿矢も彼を恋愛的に好きなのだと理解した。
白雪姫の舞台から感じていた己のこの直感を、俺は疑っていない。
綿矢へ、俺の勘が出した答えが正解かどうかを問いただしたことはない。
けれど彼は絶対になっちへ恋をしていた、とライバルである俺には断言できる。
――が、大学生になった彼が、今もなっちを好きかはさすがに分からない。
普通に考えると綿矢も吉永と同じく、『過去の恋』にしてしまっている可能性の方が高いだろう。
それでも対比のために綿矢のことを思い出してみると、奴に対しては今も『気に入らない』という感情がわく。何故かは分からない。不思議だ。
「棗ってば、ちょっと電波というか少し変わった性格だったけど、アンタ含む他の男子たちみたいにブスだ何だと、顔で差別しなかったし。アタシの化粧の変化に気づいて、誉めてくれたりしたし。さすが今、美大生やってるだけあるわよねー」
「あ、うん、いやそれは……」
話が自分にとって分が悪い方向に行きそうで、嫌な予感を感じた俺は、誤魔化すように斜め上を見る。
「散々影でブスブス悪口言っておきながら、今更しらばっくれないでくれる? アタシたちの学年の女子が、『ブス隔離場所』とかいうヒッドイ呼ばれ方してたの、知らないとでも思ってた?」
「……えーっと、あの……スイマセン」
予想通り過去の悪口を責められたので素直に謝るも、吉永はにらむように目を細め、フンと不満げに鼻をならした。
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