558人が本棚に入れています
本棚に追加
破談情報を教えてくれた叔父によると、「おそらく女性の方から断った」との話だったので、俺は顔も名前も知らない仁井村をふった女性へ、「よくやった!」と心の中から拍手を送る。
(仁井村が一番許せねぇけど、暴言酔っ払い糞野郎も腹立つよな。しゃぶれだとか手○キだとか、同性でもセクハラどころの話じゃねーし! 金払って風俗行けよ! バーカバーカ!!)
暴言男の名前を聞いておけばよかった! と後悔しながら、頭の中で誰とも知れない男を妄想し、そいつを『暴言男』として殴る。
しかし、しばらくしてピークをこえたムカつきは、心を冷たくひやす感情へと変わっていく。
(……なっち、誰かに相談したり愚痴ったりして、ストレス発散出来てるかな? 一人でツラいの抱え込んで泣いてない? 大丈夫?)
赤信号で俺は足を止める。
住宅街に近い道路かつ夜遅い時間なので、信号を待っている歩行者は俺だけだし、走っている車もかなり少ない。
(どうして俺は今、なっちと連絡がとれないんだろう。なっちがツラい時、俺はどうして側にいてやれなかったんだろう)
これだけ車の通行量が少ないと、いつもの俺ならたぶん信号無視をし、さっと走って渡ってしまっていると思うのだが、今はそれを行う些細な気力さえ出ない。
(……ねぇなっち。俺、まだお前のこと、かなり好きみたい。会いたいよ……)
眼窩が熱くなり、ツンと鼻の奥が痛くなる。
吉永がもたらした内容が糞すぎる新情報なんぞで、なっちへの恋心を再確認したくなかった。
どうせならもっと幸せに、胸を高鳴らせる形で、彼を好きだと再認識したかった。
(なっちはまだ俺のこと、友達だと思ってくれてるかな? ……どうやったらなっちの新しい連絡先、知ることが出来るだろう?)
信号が青に変わる。
少し前まで怒りに任せ、肩で風を切って威嚇するように大股で歩いていた俺は、横断歩道を渡る今、足枷でもつけられたかのように、ズルズルノロノロ歩く。
(……なっちの実家に押しかけて、ご両親に訊くのはさすがになぁ。俺、ストーカーにはなりたくないし……)
最初のコメントを投稿しよう!