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吉永とファミレスで話した日の翌日、俺は「ストーカーにはなりたくない」と思っていたのに、なっちの実家近くへ来ていた。
さすがに棗家のインターフォンを鳴らすのはためらわれて、周辺をうろついているだけだが。
(現在夏休みなワケだけど、なっちは実家に戻ってるのか? 戻ってなくて、進学先の県外のアパートにいるままなら、今俺がやってることスゲー無意味だよな……)
俺という不審者は、肌を焦がす真夏の太陽光が強く照りつける中、ややしばらく棗家の近くをうろうろしたが、彼と遭遇することは出来なかった。
(連絡がとれなくなった直後なら、まだ何とか色々やりようがあったんだけど……。後悔先にたたず、てのはこういうことを言うんでしょーね……)
それから俺は長期休みで実家へ戻るたび、奇跡が起きてなっちと会えはしないかと、彼の実家周辺へ行ってみた。
他にも、高校時代の同窓会的集まりがあれば出席し、情報収集に励んだ。
しかしなっちと会うどころか、今の彼を知る者と出会うことすらなかった。
(「なっちの実家へ突撃して、ご両親に訊いてみるのは最終手段!」とか思ってたけど、今のご時世にそんなことしても、不審者扱いされて終わりそうだよなぁ……。その話がなっちに伝わったら、いっそう避けられそうな気がするし……。あー! 神様仏様! なっちに会わせてー!!)
こんな感じで俺はなっちと偶然再会するまでの数年間、無駄骨を折り続けた。
(――ま、過程がどうであれ、最終的には報われたからいいけど)
ちなみに吉永とは三十路をこえた今もつきあいがあり、時々連絡を取っている。
彼女にだけ、「なっちと再会し、今同じ職場で働いている」ということを話している。
けれど仁井村のことや、なっちが隠している彼の性指向のこともあり、彼女には「なっちと俺が再会したことは誰にも言うな」と、口止めもしている。
(なっちは長期休みに実家へ帰ることすら、忌避してるぽいからなぁ)
俺たちの再会を吉永へ教えた以降で、なっちの新しい噂を聞くことも、俺へ彼について訊いてくる奴もいないので、彼女はちゃんとずっと約束を守ってくれているようである。
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