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「――あのさ、なっち。俺とつき合わない?」
「は? 馬鹿なのかお前?」
瀬尾の目は真剣だったが、アルコールで顔を赤くしてでは、こちらとしてはそう言わざるを得ない。
「男子校勤務で出会いがないから、て言っても、手近で済まそうとするにも限度ってもんがあるだろ。おっぱい星人のお前はゲイじゃないだろ?」
冷たく手を振り払って、少しは酔いを冷ませ! と未開封の缶ビールを、瀬尾の額に押し当てる。
ちなみに俺がゲイであることは、瀬尾には言っていない。
「なっちが女装したらイケる気がする」
「しねぇよ。俺に女装癖はない。三十路のおっさんの女装とか厳しすぎんだろ」
「なっちの白雪姫、すげぇ似合ってたけど?」
額に押し当てられた缶ビールを受け取りながら、瀬尾は懐かしいことを言った。
「俺らが高一の時の話だろ、それは」
俺と瀬尾は共学の高校出身だが、高校一年の文化祭の時に、クラスの出し物として『白雪姫』の劇をした。
ただその劇はウケ狙いで『女の登場人物も男がする』というものだった。
配役決めの日にたまたま体調不良で休んでいた俺は、いわゆる欠席裁判により、白雪姫役を割り振られてしまったのだ。
「なついなぁ。……化粧したら今もイケるって!」
「アホか。イケるわけねぇだろ。ヤバイ外見のオカマが出来上がるだけだ」
俺の白雪姫は、衣装やメイクをやたら張り切ってくれた女子のおかげか、妙に好評だった。
だがそれはもう十五年も前の話で、当時の俺は今より背が低くて華奢だったから、そこそこのモノに仕上がっただけなのだ。
まだ少年と呼べたころの俺と、今の中年の俺ではだいぶ違う。
「俺よりは似合うって! このエロ黒子が!」
「意味分からん。俺と瀬尾でキワモノ決定戦してどうする。どうせならジュリエットに頼めよ」
「あぁアレな! 星宮のジュリエットには驚いたわ、確かに!」
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