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「どうしたよ、オギー?」
既に「いつ帰ろうか?」と考えている俺に、オギーは興奮した様子で、少し離れた場所に立つ人物を指差して言う。
「あっち見て見て! 綿矢が来てる! めずらしー!」
「そだな」
示された方向へ目だけやれば、都会の大学へ進学して垢抜け、よりいっそうイケメン具合にみがきのかかった綿矢が、女数人に囲まれて立っていた。
(今更アイツに気がつくとか、遅ぇよオギー。綿矢なんてどーでもいーし。興味ねえし。あいつ絶対に今のなっちの情報、持ってないだろうし)
俺が知る限り、これまで一度も同窓会的集まりに顔を出したことがない綿矢が、よりによって退屈だと一目で察せられるこの会に顔を見せるなんて、一体どういう風の吹き回しだろう?
そんな疑問は抱いたが、これに対して解答が欲しいとは、まったく思わなかった。
「あいつが同窓会に顔出すなんてはじめてじゃね? 珍しいし、俺ちょっと綿矢と話してくる!」
オギーは俺へそう言い残し、綿矢の元へと早足で近づいて行った。
「ただいまー! ――綿矢ってば、高校時代より断然性格が丸くなってた! 元が『氷の王子様』だから、むっちゃフレンドリーてワケじゃないけど。雪解けしたよ~てくらいには、話せる感じ」
俺が新しいソフトドリンクを手に入れ、壁にもたれて飲んでいると、オギーが笑顔で戻ってきて、勝手に綿矢情報を報告してくる。
「社会に出て揉まれて、丸くなったのかもな」
ありきたりな返事をすれば、オギーは次に、俺がちょっとびっくりすることを言う。
「後、瀬尾と同じく棗を探してるみたいだぜ? 棗の連絡先、知ってるか訊かれた。忘れ物を返したいんだと」
「綿矢がなっちを? 忘れ物?」
引っかかった単語をおうむ返しに口にしながら、綿矢の思惑を俺は大体理解する。
(チッ! アイツもまだなっちのことが好きなのかよ! 忘れ物返したいとか、絶対嘘だろ!)
勝手で無根拠な推測で勘だが、百パーセント当たっている自信がある。
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