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「……よぉ。久しぶりだな、綿矢」
多少のぎこちなさを感じさせるものの、彼は口元に微笑みを浮かべていた。
(うわ、マジか。確かにさっきオギーが、『性格が丸くなってた』と言ってたけども)
知ってはいてもいざ目の当たりにすると、高校時代は無愛想で排他的ですらあった彼を知る身としては、その変わりぶりに驚いてしまう。
「瀬尾、俺のこと覚えててくれたんだな。嬉しいよ」
「学校一のモテ男を忘れるわけねーじゃん。高校ん時よりお前、イケメンになったんじゃねーの?」
「アハハ、過大評価すぎる。でも、どうも」
他にも数個便器が並ぶ中、わざわざ俺の隣を選んで話しかけてくる理由なんて十中八九、なっちの情報を得るためだろうなと察した。
「瀬尾は棗と仲がよかったと記憶してるんだけど、今も彼と連絡とってたりするのか?」
「ううん、全然とってない」
「そっか……」
綿矢は落胆した様子を見せた後、何故なっちを探しているのかという、既にオギーから聞いていた理由を説明したが、俺が答えられる返事は変わらない。
「なぁ、綿矢。高校の時から訊きたかったことがあるんだけど、訊いていい?」
「ん? いいけど、何だよ?」
用を足し終わり、便器前と同じく、綿矢と並んで手洗い場で手を洗いながら、俺は大きな鏡ごしに彼を見る。
「高一の文化祭の時、白雪姫の劇やったの覚えてる?」
「ああ」
「その時に白雪姫役と王子役だけ、無記名投票の推薦から決めるていう、ハイパー面倒な方法とったじゃんか」
「そうだっけ?」
「そうだよ。それで王子役がお前で、白雪姫役になっちが決まった」
「さすがに配役は覚えてる」
「白雪姫役の推薦用紙になっちの名前書いたの、綿矢だろ」
疑問ではなく断定、質問ではなく確認を、俺はする。
「……どうしてそう思う?」
「どうしてって――お前の相手役を争って女子内でギスギスさせないためとか、男が姫やった方が話題も笑いもとれるとか、頭いい綿矢なら考えるかな? と」
認めさせるため、俺は適当なことを言う。
いわゆる誘導尋問だ。
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