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しかし今は知らなくとも、この同窓会以降も綿矢がなっちの行方を探すのであれば、俺も同じことをしているとすぐに知るだろう。
別に悪いことをしているわけではないので知られても構わないのだが、彼はその時俺に対し、何を思うのだろうか?
(……どうだっていいか)
ライバルであると気づかれたところで、なっち不在の状態では、何がどう変わるということもない。
「なっちとはずっと会ってないからなー。だからどうなるか分からんぞ?」
ただ「分かった」とか「うん」とか「了解」とか、約束する返事はしたくなかった。
「もし会えたらでいいから。頼む」
必死さがにじむ綿矢の言葉に対し、今度はどうはぐらかそうか? と考えた時、「綿矢くーん!」と彼を呼ぶ女の声と、俺の携帯電話の着信音が同時に廊下へ響いた。
「あ、俺もう行かないと。友達待たせてんだわー。そんじゃな!」
「え? ――ああ、うん?」
着信したのは姉からの買い物依頼メールなのに、あたかも待ち人に急かされているメールが届いたかのようにふるまう。
「綿矢君、こんなトコにいたんだ。探しちゃった! ――ねぇねぇ、同窓会つまんないから、別の場所でお茶しない? 私、いい雰囲気のカフェ知ってるんだ~」
「いや俺はまだ――」
イケメンを逃すまい! と、ギラギラした肉食系女子に綿矢がまとわりつかれている間に、俺は素早くトイレ前から撤退する。
(約束させられなくてよかった!)
なっちと偶然再会した後、俺が綿矢へ連絡をすることはもちろんなかった。
ただ彼からもらった名刺はまだとってある。
もらった当初は即破り捨ててやろうと思ったのだが、冷静になって考えた末、『情報』としてとっておくことにしたのだ。
だから今も彼の名刺は、実家の俺の学習机の奥にしまってある。
*
(仕事の飲み会、マジうぜぇ面倒くせぇ!)
綿矢と遭遇した同窓会の翌年の秋――つまり社会人二年目の秋の、とある夜。
同僚であるオッサン教師どもとの飲み会の後、たぶん午後十時すぎくらいだったと思う。
秋も深まり、涼しいはとうに通り越した肌寒い駅のホームで一人、俺は薄いコートを羽織って立っていた。
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