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飲むと運転出来ないのが不便だ、と車の運転に慣れた俺は思いながら、ホームの先頭で電車を待つ。
(……なっち、今どうしてんのかなぁ?)
地味に彼を探しはじめてもう約二年と少しだが、いまだ何の成果もない。
(遊び含めて女と結構つきあったりヤったりしたけど、なっちといた時が一番ドキドキしたし、幸せだったし……忘れられない。ねぇねぇなっち、今どこにいるんだよ?)
軽く酔っ払っており、冬が近づく寒いホームに一人という状況は、俺をひどく感傷的な気分にさせた。
時間が時間のため周囲に人は多くないが、ザワザワはしているので、余計に孤独を感じる。
(吉永からも何の新情報もあがってこないし……もしかして綿矢はなっちに会えてたりする? ――そんなの嫌だ! ズルい! 俺にも会わせろ!)
酔っ払いなので思考は支離滅裂、感情は極端に悲しみの方向へと大きく振れ、俺は鼻をすするに合わせ、うつ向いていた顔を上げる。
その時、向かいのホームに立つ一人の男の姿が、ふと目に入った。
(ん……?)
男なんて良くも悪くも特徴的な奴でなければ、普段なら気にもとめないのだが、向かいのホームの男は珍しく俺の気を引いた。
俺は定位置から少しずれていた眼鏡をちゃんとかけなおし、その男を観察する。
男の背は俺と同じか、少し低いくらいだろうか。スタイルは悪くない。
彼の服装はスーツではないが、ラフすぎたり派手すぎるものではない。落ち着いた雰囲気の大学生、といった風だ。
最後に、ホームから線路を見つめている白い顔をよくよく見れば――彼は男の癖に、とても俺好みな顔をしていた。
(なっち?!)
頭から冷や水でも浴びせられたかのように、酔いが急激に覚めていく。
待っていた電車がもうすぐ来ることをアナウンスが知らせてくるが、そんなのは今どうでもいい。
向かいのホームの男が、本当に棗哲也であるか否かの確認が、今一番の最優先事項だ。
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