チャラ男猟師と不機嫌な白雪姫(SS)⑤

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(向かいのホームの電車、確認終わるまで来るんじゃねーぞ!)    思わぬ遭遇にぞわりと鳥肌をたてながら、俺はコートをひるがえしてホームを走り、階段を二段飛ばしに駆け上がる。   「なっち!!」    今度は階段を駆け下りながら、比較的階段から近い場所で電車を待っている彼へ、俺は人目をはばからず大声で呼びかける。  俺がいたホームには電車が入って来ていたし、彼がいるホームでもアナウンスが流れていた。  だから彼へ俺の声が届くか心配だったが、目的の人物はびくりと身体を震わせた後、俺が会いたくてたまらなかった顔を、俺へと向けた。   「大声で昔のあだ名呼ばれて、無茶苦茶驚いた」    約六年ぶりにようやく念願の再会を果たすことが出来た人物は、俺の記憶と比べるとずいぶん大人びていたけれど、間違いなくなっちだった。  この時なっちは残業帰りで、夕食すらまだだと言ったため、俺は「おごるから!」と駅近くの居酒屋へ、強引に彼を連れ込んだ。 「終電で帰宅はざらだし、時々会社で一晩過ごすこともある。だから普段は車通勤という瀬尾と今日会えたのは、すっごい偶然だなぁ」 「会社に泊まるって……なっちの今の仕事、大変なんだな」 「ウェブとか広告とかデザイン系の仕事は、大体こんなもんだと思うぜ?」    大人になったなっちは中性感を減らしてはいたが、小綺麗な顔は変わらずだった。   「身体壊すなよ?」    ただその顔には、疲労によりやつれた感じも加わっており、俺は彼がとても心配になる。  けれどそれも、元々彼が持つ少し影のある雰囲気にプラスに働き、魅力のひとつに変えてしまっているのが罪深い。 (――て、馬鹿か俺?! 仕事で苦労してるなっちも魅力的、だなんて感じるなんて、とんだ最低糞野郎だぞ! 終電ざらとか会社に泊まるとか、完全に労働基準法違反な働き方じゃん!)
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