チャラ男猟師と不機嫌な白雪姫(SS)⑤

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 なっちから俺への信頼度の低さを、今ここで急に上げることは出来ない。  そんな信頼度の低い俺が、「彼を少しの間でも引き止めるには?」と考えた時、『自分が一時的にでも彼へ利益をもたらす存在になるしかない』という結論に至った。  だからこの美術教師求人情報話は、転職したいだろうなっちの心につけこんだ、即切りされないための対策だ。  もちろん純粋に、「なっちと一緒の勤務先とか最高じゃん!」という気持ちも多分にあるが。 「おおっ! さすが! じゃあ明日にでもなっちのこと、校長とかの採用関係者に話しちゃっていい?」 「うーん……急な話だから、少し考えさせてもらっていいか?」 「おっけおっけ! サラリーマンから教師への転職は、職種違いすぎて悩むよな。ウンウン! ――なら考えが決まったら、連絡くれよ」    俺は笑顔を作り、極めて自然な仕草で携帯電話を取り出す。   (なっちがウチの学校の採用試験受けてくれるなら、なっちを採用してくれるように、俺からも校長とかに働きかけるつもり。――けどもし不採用でも、連絡とれる間に信頼を積んで、切り捨てられない友達になれるように頑張るぜー!)   「分かった」 「あと俺さ、就職でこの県へ引っ越してきたから、まだここでの友達少ないんだよねー」    これから密な関係を築くため、俺はあからさまな布石を打つ。   「瀬尾の癖に? 意外すぎる」 「だってよー、仕事に時間の大半持って行かれんじゃん? そうすると自動的に職場以外の人間と会う時間、削られることになるじゃんか」 「そっか。そうだな。俺も同じだし」 「だからこれからなっちのこと、飲みとかに誘っていい?」 「……いいよ、構わない。連絡待ってる」    オーケーの返事をくれるまでに一瞬間を空けたが、なっちは小さく微笑み、携帯電話を取り出した。   (ヨッシャァァァアァァアァァーーーー!!!!)    中性感は薄れ、彼は立派な大人の男になっていたから、もう白雪姫のドレスは似合わないだろう。  それでも彼は綺麗で、俺が贔屓したくなる大好きな『なっち』だった。
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