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なっちから俺への信頼度の低さを、今ここで急に上げることは出来ない。
そんな信頼度の低い俺が、「彼を少しの間でも引き止めるには?」と考えた時、『自分が一時的にでも彼へ利益をもたらす存在になるしかない』という結論に至った。
だからこの美術教師求人情報話は、転職したいだろうなっちの心につけこんだ、即切りされないための対策だ。
もちろん純粋に、「なっちと一緒の勤務先とか最高じゃん!」という気持ちも多分にあるが。
「おおっ! さすが! じゃあ明日にでもなっちのこと、校長とかの採用関係者に話しちゃっていい?」
「うーん……急な話だから、少し考えさせてもらっていいか?」
「おっけおっけ! サラリーマンから教師への転職は、職種違いすぎて悩むよな。ウンウン! ――なら考えが決まったら、連絡くれよ」
俺は笑顔を作り、極めて自然な仕草で携帯電話を取り出す。
(なっちがウチの学校の採用試験受けてくれるなら、なっちを採用してくれるように、俺からも校長とかに働きかけるつもり。――けどもし不採用でも、連絡とれる間に信頼を積んで、切り捨てられない友達になれるように頑張るぜー!)
「分かった」
「あと俺さ、就職でこの県へ引っ越してきたから、まだここでの友達少ないんだよねー」
これから密な関係を築くため、俺はあからさまな布石を打つ。
「瀬尾の癖に? 意外すぎる」
「だってよー、仕事に時間の大半持って行かれんじゃん? そうすると自動的に職場以外の人間と会う時間、削られることになるじゃんか」
「そっか。そうだな。俺も同じだし」
「だからこれからなっちのこと、飲みとかに誘っていい?」
「……いいよ、構わない。連絡待ってる」
オーケーの返事をくれるまでに一瞬間を空けたが、なっちは小さく微笑み、携帯電話を取り出した。
(ヨッシャァァァアァァアァァーーーー!!!!)
中性感は薄れ、彼は立派な大人の男になっていたから、もう白雪姫のドレスは似合わないだろう。
それでも彼は綺麗で、俺が贔屓したくなる大好きな『なっち』だった。
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