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『美術教師の採用試験、受けてみたいんだけど、どういう手続き踏めばいい?』
偶然の再会から約半月後、なっちから転職の意思を固めたらしいメールが届いた。
(イヤッホゥ! 全部俺に任せとけ、なっち!!)
メールを読んだ俺は心の中で早い祝杯をあげ、俺でも可能な採用試験にまつわる作業は代行したり、なっちを採用して欲しいと関係者にゴマをすってみたり、彼と一緒に働くために色々と行動をおこした。
その甲斐あってか、なっちの実力かは分からないが、彼は命翠高校の美術教師として採用された。
「なっち! 合格おめでとー!!」
彼の採用に、俺は本人以上に喜んだ。
これでまたしばらくは――いや、途中で退職をしない限りは定年までずっと、なっちと一緒の職場で過ごせるのだ。
そう思うと、俺の心はぽかぽかして、顔はニヤニヤして、じたばたと意味もなく暴れたくなった。
*
「瀬尾先生は棗先生と仲いいですよね」
「リア高時代からの友達だからな」
「……俺、棗先生のことが好きなんです! だから告白するの、協力してもらえませんか?」
青春に恋愛はつきものだから、生徒から教師へ恋愛相談をするなんて行為は別段、珍しいものではない。
私立命翠学園高等学校は片方の性別しかいない男子校であるが、やはりその例外に漏れはしなかった。
けれど前述の通り、自分と同じ性別の人間しかいない学校生活なので、同性相手のこの手の相談は、共学よりはるかに多いだろうなと思う。
俺が『保険の先生』という立場にいるから、他の教師連中より余計に多く、恋の悩みを相談をされているのかもしれないが。
「協力なぁ……。冷たいことを言うようだけど、告白してもフラれるだけだぞ」
「――ッ! どうして瀬尾先生がそう断言出来るんです?! 実際に告白してみないと、結果なんて分からないですよね?!」
ゲイかバイか、男子校という環境故の一時的勘違いか、俺みたいになっち限定での恋かなんて知るわけないし、俺は好きな相手の性指向にしか興味はない。
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