二年生、秋~前編~

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 先月半ば過ぎにあった文化祭で、星宮のクラスは『ロミオとジュリエット』の劇をした。  男子校なので、当然キャストは男しかいない。  しかしドレスを着て長髪のウィッグをかぶり、メイクをほどこした星宮は、かつて白雪姫をやった俺など目ではないほど、美しいジュリエットとなった。   「さすが姉弟だよな。女装するとかなり姉のさんごに似るのな」    缶ビールをもてあそびながら瀬尾が言う。  星宮のジュリエットにひとつ文句をつけるとすれば背の高さだが(といっても小南のように馬鹿でかくはない)、持ち前の綺麗すぎる顔面と、人気モデルの姉から教わったという化粧が合わされば、それこそ女性モデルとしても通じるのではないかと思うほどだった。   「だな。一年の『姫』の四ツ橋が、『ボクだって女装すればあの程度余裕ですぅ!』て、ジュリエットの人気に歯噛みして悔しがってたのは笑った」    俺の思惑通り、思い出話から上手く話題移行出来てほっとする。  ――実は『白雪姫』上演本番で、全然好きでもない王子役の男からキスをされており、女装も含めてあまり良い思い出ではないのだ。  事故か嫌がらせかイタズラ心かは知らないが、王子はそれを口外しなかったし、俺だって当然言いふらすわけがないので、二人だけの秘密で収まったのが不幸中の幸いだった。   「でもそのせいで野獣・小南が怒り狂うコトになって、副担任なっちはストレスマッハで胃が痛い、と。御愁傷様です」    瀬尾の口元はニヤニヤしているが眉は下がり気味で、多少は本当に不憫に思ってくれているらしい。  『ロミオとジュリエット』の劇は、役者の芝居の上手さやコメディテイストな脚本、どう用意したかは知らないが豪華な衣装等々、全出し物の中でトップといえるくらい好評なものだった。  だがそうなったことで、ただでさえ高い星宮への注目度も、よりいっそう増すことになった。  つまり星宮の番犬――いや狂犬な小南は、星宮に群がろうとする害虫たちに、かつてなくイライラさせられる事態になったのだ。
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