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常識や倫理を守れば、性指向が何であろうが自由に恋愛すればいいと思っているし、己の性指向に悩んでいるという話なら、真面目に相談にのるけれど。
ほら俺ってば、『保健の先生』なワケだし。
「お前さぁ、卒業していった奴含めて生徒が今まで誰も、棗先生へ告白したことがないと思う?」
「それは……」
つまり俺はなっちの性指向は気になるし、もちろん彼の恋愛関係だって気になっている。――嫉妬で気が狂うかもしれないので、あまり詳しく訊いたことはないが。
そういうことで、校内にいる年下のライバルたちも、それなりに気にはなる。
だけれど、生徒たちになっちを盗られる心配は、ほとんどしていなかった。
「前にもお前みたいな生徒がいて、『好みのタイプとか、恋人の有無とか探って欲しい』と、しつこく俺に依頼してきたワケですよ。だから先生はいっそストレートに棗先生へ、『生徒に告白されたらどうする?』と訊いてみました」
「棗先生は、なんて……?」
「『性別以前に、教師と生徒で恋愛なんてあり得ない』――だってさ」
なっちへ片想いする生徒へ告げた、この俺の言葉に嘘はない。
これは実際になっちに訊いて得た答えであり、ライバルを蹴落とそうと、俺が考えた嘘ではないのだ。
つまりこれが、心配をしていない理由である。
(なっち自身が教師と生徒の関係で痛い目みてるし、バレたら身の破滅だし、そもそも告白されたからって生徒に手ェ出す教師とか、ヤバイ奴だしね)
しかし、毎年入学してくる生徒たちはそんなことを知るわけがないし、恋に落ちる相手なんて、理性や意思でコントロール出来るものでもない。
(でもまぁ仕方ねーよな。俺と綿矢に片想いされてる男だぜ。ガキどもでなっちを好きになる奴が出てきても、そりゃ不思議じゃねぇってもんですわ)
俺が思った通り、どこか影のある美術教師へ胸を焦がす生徒たちを、なっちが相手にすることはなかった。
――……唯一の例外・小南宗一郎を除いて。
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