二年生、秋~前編~

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 小南は、西に星宮への性暴力を仄めかす言動をする生徒がいれば拳を振り上げ、東に星宮へ下卑た言動をする生徒がいれば胸ぐらを掴みあげる。  そして担任と副担任の俺は、騒ぎをおこすたび駆けつけて仲裁する。  週末に職員室で会った担任は、可哀想なほどゲッソリした顔をしていた。 「本当ソレ。あと生徒間だけならともかく、佐藤先生にも糞みたいな疑惑がかけられてる、という事態もどうかと思うよなぁ……」 「あの人のは身から出た錆びつーか、マジで本当なんじゃね? 星宮の着替えを盗撮した、ていう噂」 「本当に事実っぽそうで、笑い話として話題に出すことすら、はばかられているからな……」    女生徒の存在を許さない男子校という特殊環境下、思春期真っ只中のヤりたい盛りの生徒たちが、女性の代用品として星宮に下卑た視線を向けるのは分からないでもない。  だが教師も星宮をそういう目で見ている、という噂がたつのは頂けない。  ――俺も小南に片想いしている身なので、あまり佐藤先生をどうこう言える立場ではないのだが。 「佐藤先生てば不思議なことに、自分の美少年趣味がバレてないと、いまだに思ってるみたいだぜ?」 「えぇ?! ……マジかよ……信じられない……」    佐藤先生の黒い噂は当然小南の耳にも入ることとなり、数日前に小南が佐藤先生に因縁をつける騒ぎが起きている。   「そういやジュリエット星宮が、金曜日に保健室にサボりに来たんだけどさ、すげー機嫌が悪くてびっくりした!」    瀬尾は持っていた缶ビールをテーブルの上に置くと、聞いてくれと言わんばかりに、上半身をひねって完全に俺の方を向く。 「星宮って人当たりがいいというか、他人に不快をまき散らさない奴だろ? なのに一昨日はムチャムチャ負のオーラ出しててさぁ……」 「へぇ」 「なっち、その理由知ってたりする?」 「……詳細は全然知らないけど、どうも星宮と小南が喧嘩したらしい」    言うかどうか迷ったが、もし週が明けても続くようなら知れ渡るだろうことなので、金曜の放課後に四ツ橋からもたらされた情報を伝える。
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