二年生、秋~前編~

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 *    何とか無事に自宅から出勤した月曜日、「星宮に恋人が出来た」という話題で学校中が持ちきりになった。  瀬尾が目撃した負のオーラを振りまいていた金曜日とは一変して、上機嫌な様子の星宮は、廊下で会っただけの俺にも、右手薬指に輝く真新しいシルバーの指輪を見せてきた。   「星宮に恋人が出来たらしいですけど、これで多少は生徒たちの星宮への熱狂も収まりますかね?」    昼休みに職員室で担任に声をかけられた俺は、部屋の隅に連れて行かれ、期待に満ちた目で言われた。   「先生も星宮に指輪を見せられたんです?」 「えぇはい。没収されるから生活指導の先生には見せにいくなよ、とは釘をさしておきましたが」    担任は昼食中だったらしく、右手に食べかけの鮭のおにぎりを持っている。  四十路半ばの彼は既婚者なので、手作り感あふれるそれは、きっと奥さんが朝に握ったものだろう。   「生徒たちの星宮への熱が冷めれば、小南も騒動を起こす回数が減るだろうから、むしろもっと見せびらかして欲しいとか思ってます?」 「そりゃそうですよ! 棗先生だってそうでしょう?!」    担任は大袈裟に首を縱にふり、鮭おにぎりをひと口頬張る。   「まぁそうですね。何度も突き飛ばされたり、胸ぐらを掴まれたくはないです」    暴力は不得手だし、恋をしている相手に好んでどつかれたいわけがない。   「もっと早く星宮が恋人を作ってくれていたら、生徒たちの懸想や妄想も酷くならなかっただろうし、小南もこんなに暴れなかっただろうに……」    はぁと深いため息を担任はつく。  星宮は合コンなどには誘われて時々行っているが、高校に入学してから特定の相手と交際はしていない。  と、本人が以前言っていたのを、俺も聞いて知っている。
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