二年生、秋~後編~

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二年生、秋~後編~

 星宮に恋人が出来たという騒ぎから約二週間後の火曜日の夜、俺は久々に夜の街を目指して電車に乗っていた。  理由は単純、ひとりでゆっくり飲みたかったからだ。   (さて今夜はどこで飲もう? 前に瀬尾に教えてもらったバーにするか? 雰囲気よかったし。でも馴染みのところに顔出したい気持ちもあるし……)    電車を降り、頭の中で店の候補をあげつつ、ネオン街目指してぷらぷら歩く。  冬になって日の入りが早まったせいもあるのか、まだ宵の口の時刻だが、派手な電飾がえらく輝いて見える。   (…………ん?)    歓楽街に入ってわりとすぐにある、路地裏への入り口に座り込んだ人物がたまたま目に入った。  缶ビールを片手に持った、体格のよい若い男がうつむき、だらしなく地べたに足を投げ出して座っている。  夜の街としてはまだ早い時間ではあるが、場所的に既に酔いつぶれている人間は、そう珍しいものではない。  普段なら気にもとめないありふれた光景だったが妙に気になり、数メートル通りすぎたところでその理由に気がついた。   (さっきの小南じゃねーのか?! もしそうなら無茶苦茶マズイじゃねーか!)    小南本人であるか確認するため、慌てて来た道を小走りに駆け戻り、路地の入り口で泥酔している男を確認する。  ――間違いなく小南であった。   「小南! オイ、小南!」    軽くなっている缶ビールを手から抜いて脇に置き、小声で呼びかけながら、小南の肩を揺する。   「…………うぅ……」    何回か呼びかけ、軽く頬を叩いたりしていると、小南が低くうめいた。   「おい小南、大丈夫か?!」 「……ナツメ、センセ……?」    眉間にシワを寄せ、うっすらと目をあけた小南は、酒臭い息で俺の名前を呼んだ。
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