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大手カラオケボックス店の受付を無事済ませることができ、俺は心中でほっと胸を撫で下ろす。
俺が童顔、小南が私服かつ老けて見えるという組み合わせのせいか、店員に不審がられることはなかった。
足元をふらつかせる小南に肩を貸してやりながら、適当に選んだ部屋を目指す。
(生徒や同僚や保護者……とにかく学校関係者と遭遇しませんように……!)
教職に未練はないのは本当だが、内心ビクつきながら狭い通路を進む。
やっと目的の部屋へとたどり着き、ドアを開けて小南をソファーへ放りだす。
俺はチビではないが、小南は俺より五センチ以上背は高いし、体格のいい筋肉質な身体は重い。
千鳥足の小南を支えるだけでも結構な労力だったので、彼が完全に意識を失っていたら運べなかったと思う。
わりと早く意識を取り戻してくれたのは、不幸中の幸いだった。
「烏龍茶ふたつお願いします。あ、それとお冷やを一杯もらえませんか? ――ええ、はい。よろしくお願いします」
小南の酔いを覚ますために、部屋に備えつけられている電話で、飲み物を注文する。
そしてリモコンで履歴をあさり、適当に若い男が歌いそうな曲をいくつか入れる。
(歌うつもりはないけど、これから店員がここに飲み物持ってくるんだから、その時無音だとちょっと不自然だもんな)
注文後少しして、女性店員が注文の品をトレーに乗せて運んで来た。
「ありがとうございます。あとはこっちでやるんで大丈夫です」
俺は素早く彼女に近寄り、トレーに手をかけながら、なるべく愛想よく話しかける。
不自然なことをしているかも? と思ったが、女性店員は「あっ、いいんですか? ありがとうございます」と素直に渡してくれた後、にこっと笑って帰っていった。
忙しいので余計な手間が省けて、彼女は嬉しかったのかもしれない。
「小南。烏龍茶来たぞ。飲めよ。それとも水の方がいいか?」
ソファーに半ば寝転がっているような小南を起こし、その隣に座って烏龍茶のグラスを差し出す。
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