二年生、秋~後編~

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「酒飲むならこっそり飲め。あんな人目につくところで酔っぱらって寝てるな。見つけたのが俺じゃなかったら、退学モノだぞ?」 「退学になろうがもうどうでもいい。――もう死ぬしかねーんだ、オレは……」    さっそく小言を言ってやると、小南は烏龍茶をひと口だけ飲んでテーブルに置いた。   「星宮と仲直り出来ないからか?」 「そうだよ! コハクに嫌われたままの人生なんてたえられない! もう生きていけない!!」  ここに来るまでの間に推理した予想を伝えれば、悲劇のヒロインような台詞を小南は叫んで、ポロポロと涙をこぼす。 「センセはセンセなんだから、生徒を助けてくれよ!」 「!?」    カラオケを選んで正解だったな。と生ぬるい目で小南を見ていると、いきなり横から抱きしめられた。   「お、おい! 小南!?」    驚き以外で脈拍を上げていい状況ではないが、片想いしている相手からの突然のハグに慌ててしまう。  酒臭さに混じる小南の元々の体臭だとか、鍛えられた腕と厚い胸板だとかが密着してくるとか、天国なのか地獄なのか。   「スゲェキツい……。助けてくれよ……センセ……」 「――っ!」    耳元で吐息まじりのかすれ気味の色っぽい声で囁かれることは、耳が弱い俺の下半身に響く。   (違う違う違う! 小南は酔っぱらってて、そんなつもりは欠片もないんだ! 俺たちは教師と生徒なんだぞ!!)    必死に平常心を保ちつつ、俺は小南の腕の中で問いかける。   「……助ける――とは、どう助けたらいい?」 「オレが知るか!」    近距離での突然のがなり声に俺が首をすくめれば、一変して弱々しく小南は言葉を続けた。   「……もうどうしようもなさすぎて、マジどうしたらいいのか……。もう死んで詫びるしか、オレには思いつかねぇんだよ……」 「死ぬとか軽々しく言うなよ」    拘束力が弱まったので、小南の腕を外して、テーブルの上のおしぼりに手を伸ばす。  そして俺にもたれたまま、相変わらず泣いている小南の涙をぬぐってやる。
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