一年生、春

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 中学校からの申し送り事項に「同じクラスにして欲しい」とあったので、彼らは同じクラスとなったのだが、たぶん本人たちを見るまで高校側は関係を誤認していたと思う。  こちらが当初想定していた『害虫から美女を守る役割として野獣が必要』な割合より、本来の物語の通り『野獣が美女を欲している=大人しくさせるため』の必要割合がかなり多かったのだ。 「どっちでもそう変わらないじゃないか。――二人がそれで仲良くやってて、俺らも楽できるってなら、それは神采配なんじゃないのか」    傍から見れば二人は歪で奇妙な関係ではあるが、それで上手くここまでやってきているようなら第三者が口を出すことではないだろう。  ましてや俺はたまたま彼らのクラスの副担任なだけの、いち美術教師にすぎないのだし。   「さめてんなー?」 「お前は保健室の先生、ていう離れた場所にいるから他人事で盛り上がれるんだろ」 「あ、俺、地雷踏んだ? ごめんなー。これやるから機嫌直せよ」    瀬尾が自分の皿からつくねの串を、俺の皿にのせてくる。   「なら今日の飲み代、瀬尾のおごりで」 「ヒデェ! それは勘弁してくれよー! 今月ヤバイんだって!」 「おまたせしましたぁ。大根サラダでぇす」    瀬尾が懐具合をなげいた時、先ほどと同じ店員が新しい料理を持って現れる。   「心が広いから串一本で許してやるよ。――面倒おこさなきゃ、どうでもいいじゃないか」  皮肉っぽく笑って俺は煙草に手を伸ばす。  どうでもいい、なんて嘘だ。  十年以上ぶりに一目惚れした相手のことで、どうでもいいと簡単に切り捨てられることなんてない。  ほとんどの人間からすれば、きらびやかな星宮に近づくのに邪魔な、幼馴染みでヤンキーという小南の存在は邪魔で憎らしいだろう。  しかし俺にとっては小南に無条件に好かれて守られて見える、小綺麗なだけの星宮の方が憎らしい。  でもそんな感情は切り捨てなければいけない。  教師が生徒に、成人して十年もたつ大人が子供にそんな感情をもつなんて、どちらもろくな教師でも大人でもないのだから。  ……俺はただ三年間静かに小南を見守るだけと決めたのだから。
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