一年生、春

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 *   「だりぃ……。どうして高校生になってまで写生大会なんてのがあるんだよ……」    高校デビューしました! と分かりやすく髪を金髪に染めた生徒が、教卓の前から二番目の席で愚痴る。   「先生もそう思うが、この学校の伝統らしいからあきらめろ」    中間テストを終えた五月末のある日、俺は教壇に立ち、締めのホームルームで翌日の校内写生大会の説明をしていた。  何故かは知らないが、この高校では一年生限定で、中間テスト後に写生大会が行われる。  偏差値は高くないが歴史だけは長い、理由がよく分からない伝統行事だ。   「授業よりマシ?」 「美術の先生のナツメちゃん大変じゃん」 「絵の具セットなんてもう捨てて家にないんだけど……」 「校内限定? 外出ちゃいけねーの?」 「他の学校に行ってる奴がテスト後は休み! て言ってたのに、ウチは休みじゃねーのかよ!」    ざわざわと生徒たちが雑談をし出す中、ちらりと小南に視線をやれば、机に肘をついて興味なさそうに窓の外を見ている。   (……サボるか? 星宮が参加するなら来るか?)    出来れば参加して欲しい。  本校は低レベルながらも一応進学校の枠組みに入るので、五教科を教えない教師の扱いは軽く、俺は唯一の美術教師だ。  よってこの写生大会という行事の全責任と進行が俺ひとりに降りかかってくるので、毎年苦痛でしかない。  しかし今年は小南がいるので、例年とは違う。  先ほども言ったが、俺は重要性の低い美術教師で、かつオマケのような副担任なため、担当クラスの生徒たちとの接点はあまり多くない。  だからこそ、小南と堂々と接点をもてるこの行事にわずかな期待を持っている。   「画板はこっちで用意するから、どうしてもマイ画板じゃないと嫌な奴以外は絵の具と鉛筆だけ持ってこい。あと筆洗いバケツな!――じゃ、これで今日はおしまい!」    行事の要項を書いた資料などを片手に持ち、教壇を下りる時に再度小南を見れば、彼は離れた席で隣席の友人としゃべっている星宮の背中を見ていた。
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