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翌日、諸注意やら画板の貸し出しやらを一通り終えて、そこここで絵を描く生徒たちに順に声をかけながら小南を探す。
星宮と一緒に画板を受け取りに来たので、この写生大会に参加しているのは間違いない。
――告白をするつもりは更々ないが、やはり恋心というのは押さえられないもので、どうしたって小南のことが気になってしまう。
無理矢理押さえつけようものなら、違和感のある挙動をとってしまうだろうと思ったので、教師として不自然でない範囲でなら彼との接触は自分に許可している。
(いたいた。予想はしてたけど分かりやすいな!)
小南は中央に噴水が設置された中庭にいた。
(真ん中が星宮で、その右に小南、左に勇井か。で、近くに富良野やらの別グループがいて……それを更に囲む感じで、『姫』のファンだか野次馬だかがいて……いつも通りな感じだな)
予想通りぶっちぎり一位で『姫』の称号を手にしてしまった星宮を中心に、小南たちは校舎で影が差している芝生を囲むレンガの上に並んで座っていた。
遠目から観察してみた感じ、星宮目当てのギャラリーたちとは違い、彼らは案外真面目に絵を描いているようだった。
(小南はどんな絵を描くんだろう?)
美術教師として彼がどのような絵を描くのかは、純粋に興味がある。
上手下手関係なく、絵はその描き手の内なる個性を映すと思うからだ。
「おぅ、お前ら順調に描けてるか?」
近寄りながら声をかければ、勇井と星宮が顔を上げた。
「見て見て、なっちゃん先生! 結構上手く描けてると思わない?」
星宮が座ったまま「早く来い」とばかりに俺を手招くと、小南も俺の存在に今気がついたかのようにようやく顔をあげた。
「確かによく描けてるな。特に噴水の水の表現がよく描けてる」
星宮の前に立って彼の画板を覗き込めば、まだ下書き段階ではあるが、アピールするだけあるものが描かれていた。
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