二年生、夏~四ツ橋凛・後編~

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二年生、夏~四ツ橋凛・後編~

 四ツ橋は美術部に脅迫入部して一週間ほどたつと、星宮や小南の有無関係なく、ちょくちょく美術準備室に遊びにくるようになった。  「標的がいないのに何故来るのか?」と問いかけたところ、 「ナツメ先生にはブラックなボクを見せちゃったので、本音言える女子会ならぬ男子会、て感じですぅ★」    という回答が返ってきて、俺は彼を見つめたまま無言で瞬きするしか出来なかったのは、仕方ないと思う。  自分は元々生徒と馴れ合う性分ではないし、第二の職員室のようなこの場所に気軽に入られたくはない。迷惑である。  だが反感からまたおかしな行動をとられたくなったし、逆手をとって四ツ橋の動向を監視兼探りを入れることが出来ると考え、余裕があれば仕事をしつつ相手をしてやっていた。  俺のこの判断は正しかったようで、約ひと月後の七月初頭の放課後に訪れた四ツ橋はこう言った。   「あぁそうだナツメ先生、ボク、星宮センパイと小南センパイへの方針変えたんですよ★」    俺がメインで使っている事務机の横にある、大きな作業台に頬杖をつきながら噂話をしていた四ツ橋的には特別理由のない、話題転換のフリだったのだと思う。  しかし俺にとってそれは最重要案件である。   「へぇ? どう変えたんだ? ――今日、水だしコーヒー作りすぎて消費に困ってるから、飲んでいけよ」    襟首を掴んで変更内容を問い詰めたくなる気持ちを押さえ、俺が小南を特別視している感情を表情から読まれないように、コーヒーをいれる理由をつけて椅子から立ち上がり、そのまま後ろを向く。 「わぁ! いいんですか? エグみが少なくて飲みやすいから、水だしコーヒー好きです★」  本当に作りすぎた水だしコーヒーの消費要員と多少の接待も兼ねて、ストックしてある紙コップを手に取る。   「飲みきれないで捨てるのはもったいないからな。――で、どう方針変更したんだ?」    ぶりっこはいらないので早く言え! と思いながら、俺は小さな冷蔵庫の扉を開ける。
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