第一章

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 赤レンガで形作られた建築物。  ツタがそこかしこに伸びていながら、清潔感を感じさせる。  壁にはめ込まれた看板は二つ。  一つはもう文字が読めないほどに劣化している。  その直上の看板には、『無人の孤児院 アイビーの箱庭』と書かれていた。  大きな門戸を自力で開けて中に足を踏み入れると、一機の人型機械が頭を下げて待っていた。赤子を抱いた人型機械とは対照的に、比較的小柄な身長と流線形を多く取り入れたボディには、女性のような包容力を感じさせるものがある。  彼女はゆっくりと頭を上げた。 「私は、この施設を管理しているKRSK-086です。KYM-1205さんで合ってますか?」 「はい、KYM-3925さんからの紹介で」 「お待ちしておりました。発見した子はどんな状態ですか?」 「この子です」  彼がカプセルを下ろすと、彼女は興味深げに小さな命に目を向けた。 「ほう。……スキャン開始。ふむ、女の子の……生後一週間というところでしょうか。健康障害は見当たりませんね。食事をすぐ作ります」 「おそらく、このカプセルのおかげで生き残ったようですね。メーカーロゴが見たことないものですが……」 「おそらくは個人開発でしょう。でなければ、あの時にすでに破壊されています」 「それもそうですね。この子は幸運だ」 「幸運かどうかは、私たちが判断することではありません。この子がどう生きていくか、今の私たちにできるのはそれを見守ることだけです」 「……そうですね。すみません、失言でした」 「いえ、気にしないでください。これはあくまで私の考えですから」 「了解です。それでは、私はまた見回りに行ってきます」 「行ってらっしゃい。また近くに来たときは、寄ってください」 「ぜひ寄らせてもらいます。それじゃ」  彼が立ち去ると同時、赤子は目を覚ました。  彼女がカプセルを持ち上げた揺れを感じたのだろうか。 「さて、それでは育てますか。……というかこの子、名前はあるのかしら?」 「あうー」 「ん?カプセルの裏に何か……アカリ、彼女の名前、her name.……これが名前でしょうね」 「うー。あーは」 「アカリ、いい名前ですね」 「いひー!」 「まるで自分の名前が分かってるようですね。いい笑顔ですよ、アカリ」  笑う赤子を、アカリを、彼女はゆらゆらと腕の中で揺らした。
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