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赤レンガで形作られた建築物。
ツタがそこかしこに伸びていながら、清潔感を感じさせる。
壁にはめ込まれた看板は二つ。
一つはもう文字が読めないほどに劣化している。
その直上の看板には、『無人の孤児院 アイビーの箱庭』と書かれていた。
大きな門戸を自力で開けて中に足を踏み入れると、一機の人型機械が頭を下げて待っていた。赤子を抱いた人型機械とは対照的に、比較的小柄な身長と流線形を多く取り入れたボディには、女性のような包容力を感じさせるものがある。
彼女はゆっくりと頭を上げた。
「私は、この施設を管理しているKRSK-086です。KYM-1205さんで合ってますか?」
「はい、KYM-3925さんからの紹介で」
「お待ちしておりました。発見した子はどんな状態ですか?」
「この子です」
彼がカプセルを下ろすと、彼女は興味深げに小さな命に目を向けた。
「ほう。……スキャン開始。ふむ、女の子の……生後一週間というところでしょうか。健康障害は見当たりませんね。食事をすぐ作ります」
「おそらく、このカプセルのおかげで生き残ったようですね。メーカーロゴが見たことないものですが……」
「おそらくは個人開発でしょう。でなければ、あの時にすでに破壊されています」
「それもそうですね。この子は幸運だ」
「幸運かどうかは、私たちが判断することではありません。この子がどう生きていくか、今の私たちにできるのはそれを見守ることだけです」
「……そうですね。すみません、失言でした」
「いえ、気にしないでください。これはあくまで私の考えですから」
「了解です。それでは、私はまた見回りに行ってきます」
「行ってらっしゃい。また近くに来たときは、寄ってください」
「ぜひ寄らせてもらいます。それじゃ」
彼が立ち去ると同時、赤子は目を覚ました。
彼女がカプセルを持ち上げた揺れを感じたのだろうか。
「さて、それでは育てますか。……というかこの子、名前はあるのかしら?」
「あうー」
「ん?カプセルの裏に何か……アカリ、彼女の名前、her name.……これが名前でしょうね」
「うー。あーは」
「アカリ、いい名前ですね」
「いひー!」
「まるで自分の名前が分かってるようですね。いい笑顔ですよ、アカリ」
笑う赤子を、アカリを、彼女はゆらゆらと腕の中で揺らした。
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