カメレオンと変な人

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今でも忘れられない。2時間にも及ぶ激闘とも呼べる議論を終結させたのは彼女の一言だった。 「君の人格はカメレオンだ。」 時を遡ること2時間前、学校に忘れ物を取りに戻り、家路をのんびり歩いていた僕の前に、Sが立ちはだかった。 「一緒に帰らへん?」 断る理由もない。Sは想定外によく喋った。いかに数学が好きか、いかに彼氏が素敵か。それらはSの意図とは裏腹に、いかにS自身が変人かということの論拠たり得た。Sはまだ話し足りないのか僕にこんな提案を持ちかけた。 「コンビニでなんか買ってイートインで話そうか。」 断る理由もなかった。スナック菓子を購入して椅子に腰掛けた。 Sの第一声は今でも脳裏にこびりついている。 「好きを定義しよう。」 やはりというべきか、期待通りの変人がそこにはいた。 1時間にも及ぶ長い議論の中で、二人は様々な知見を得た。好きという言葉は意味が広すぎる。動物、恋人、友人、食べ物、家族、それら全てに好きが適用される。2人で好きという概念の一般化を試みたがうまくいかなかった。もとより、ふたりとも好きの一般項を求められるほど、好きの特殊解を持ち合わせていなかったのかもしれない。 このまま、議論は収束の一途をたどる、はずだった。 しかしここから、議論は思わぬ方向へと進んでいったのだった。
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