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Sは自分と彼氏がいかに変人であるかを力説し始めた。脈絡無く見える話の流れだが、Sの頭の中ではちゃんと理路整然と話が組み立てられているのだ、ということは言うまでもない。そんな経験は僕にだってある。
変人というものに並々ならぬ執着を感じた。自分と同じタイプだ、そう直感した。
僕はSの話を遮りこう言い放った。
「僕のほうが変人だと思うよ。」
さらに僕はこう続けた。
「僕は誰と話すかによって全く違う対応をしてしまうんだ。そしてそれがすべて本心ではない気さえする。僕自身どれが本心なのかもうわからないんだ。」
彼女は言い放った。
「そういうもんでしょ、100人に対して全部おんなじ対応なんて、ありはしないし、そういう人間のほうが不誠実ささえ感じる。みんな、誰でも役者だよ。」
「自分に嘘をついていても?役者は他人に向けて演技をする、自分に向けて演技をするのは悲しいことなんじゃないか、最近そう思う。」
ここで冒頭に戻る。
「君の人格はカメレオンだ。」
Sは端的に言い放った。
「カメレオンは自分で色を変えようとしているわけじゃない、生き抜くために色を変える。」
返す言葉が思いつかなかった。
Sの投じた小さな爆弾によって論争は終わった。
今でも思い返す。あれは、僕に向けた言葉なのか、それともS自身に向けた戒めの言葉なのか。
他人の過去に触れる気はないが、ほんの少し他人の過去に思いを馳せよう。
マンションの一室でSに聞かされた過去のことを思い出そう。
いつかフォーカスが合わなくなってしまわぬように。
変人であることの幸せを噛み締めよう。カメレオンにならぬように。
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