Prologue

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 いつか、どこかで捉えた言葉がある。遠く遠く、彼方黒い黒い空間。それを漂う小さな箱が、何かを、誰かに向けて、話している。  一定のリズムと、幾つかの種類を持った波動。それぞれは別個として独立しているけど、しかしどれも同じ意味な様に見える。何か、孤独な叫びのようなもの。  私は、その箱に触れることにした。材質や触感といったものは分かるわけもないけれど、「それ」が「何」であるかは分かる。とある流動、情報の塊。  あるいは、一つの方舟だ。私と、心底から同じようなもの。私は、私に許された範囲の力でそれに触れる。小さく接触したポイントから、情報が濁流のように流れてきた。  明確に、言語化できないような情報。それはほとんど情動と呼んで差し支えのないものだ。成文として成り立たない、感情のマトリクスと呼べるもの。理解不能の産物だと、私は一目で分かってしまった。  その上で、私は「彼」と同期する。互いに今、この望外な虚空を彷徨うものとして。互いの意図として出来上がらない、那由多ほどの可能性もない出会いとして、私はそう決める。  同期はすでに始まっている。いまここは、私と「彼」しか存在せず、そしてどちらも、「私」であって彼である。  だからわたしは、それらの確認として呟いてみる。音にも乗らない、電波にもならない、ただ小さな声として。  ーー地球、と。
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